1968年国立癌センターの池川ら(1)はキノコの抗ガン活性を調べる試験をした。ネズミの後足の付根のあたりにガン細胞(Sarcoma-180)を植え付ける。8匹のネズミにはガン細胞を植え付けただけでそのままにしてどうなるかを見る。別の8匹のネズミにはガン細胞を植え付けてから1日おき、お腹にキノコの熱水抽出エキス(200mg/kgの投与量を10日間)を注射して、植え付けたガンがどうなるかを観察する。
図1にメシマコブの場合の結果を示す。メシマコブエキスを投与していない群(右図)で は、ガンが急激に大きくなっているのが判る。(ガンの大きくなるなり方にバラツキがあることが分かるだろう。これはネズミという動物を使ったため、個体差 が現れている可能性と、実験者の実験がすべての場合で全く同じではないということの2つが合わさったものである。この実験は非常に熟練した方が行っている が、非熟練の実験者が行うとバラツキが大きく、統計的に意味を持たない場合がある。そういう時でも、非熟練の実験者は動物だからバラツクのは当然だと言 う。人間の場合には各人で食事、病歴など全く異なっていることが多いが、動物実験に使う動物では遺伝情報などがなるべく均一になるようにしてあり、食餌等 もできるだけ同じ条件にして飼育し、動物による個体差はできる限り生じないようにしている。公害研で動物実験をしていた方が、実験動物は試薬と同じだと 言っていた。そうでなかったら、何のために実験しているのか分からないことになる。)
メシマコブエキス投与群 非投与群(コントロール群)

図1.ガンを植え付けたネズミにメシマコブのエキスを
腹腔内投与した群(左)と 投与しない群(右)。
横軸はガンを植え付けてからの期間(単位:週)(1)
図1のメシマコブエキス投与群(左図)で、3週目から“―”符号が現れている。これは植え付けたガンが消えてしまったことを意味している。5週目には8匹中7匹でガンが消えてしまった。それに対し、メシマコブエキス非投与群ではガンの塊が急激に大きくなっている。(ガン細胞は毎日3000個位できていると言われる。これらのガン細胞は白血球、特にキラー細胞によりすぐに攻撃され、死滅・消滅している。たまたま生き延びたガン細胞が1mm位のガンの塊になるには5〜8年位かかるが、1mm位の大きさになったものはその後急激に大きくなることがこの図から想像できるであろう。予防が肝心だと言うこと。)
5週目の最後の日(35日目)にネズミを殺してガンの塊を取り出し、目方を量る。それからガン阻止率が計算される。
こういう方法でいろいろなキノコに付いて試験した結果が次の表1である。
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キノコの種類 |
がん完全消失(注1) |
ガン阻止率(%)(注2) |
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メシマコブ |
7/8 |
97 |
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キコブタケ |
6/9 |
87 |
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コフキサルノコシカケ |
5/10 |
65 |
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カワラタケ |
4/8 |
78 |
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シイタケ |
6/10 |
81 |
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エノキタケ |
3/10 |
81 |
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ヒラタケ |
5/10 |
75 |
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ナメコ |
3/10 |
87 |
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マツタケ |
5/9 |
92 |
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キクラゲ |
0/9 |
43 |
(注1)ガンの完全消失:実験に用いたマウス(匹)のうち、何匹のガンが消えたか
(注2)ガン阻止率: キノコエキスを注射しない時と注射した時とで、ガンが小さくなった割合
もっとたくさんのキノコについて試験をしているのだが、なじみの薄いキノコは省略した。この表から、メシマコブは試験に使った8匹のネズミのうち7匹でガンが消えていることが分かる。ガンの大きさを基に求めたガン阻止率は97%である。次にガン阻止率の高いものはマツタケで、92%である。この場合9匹のネズミを試験に使ったが、5匹でガンが消えている。しかし、メシマコブには及ばない。
日本で抗ガン剤として承認された医薬品が開発されたキノコが表に載っている。カワラタケとシイタケだ。 しかし、メシマコブにははるかにおよばない。カワラタケはサルノコシカケの仲間で、倒木によく生えている小さいキノコだ。シイタケは昔はホダギ栽培され、 最近はおが屑と米糠の培地でも栽培されている、よく知られた食用キノコだ。これら2種類とも大量栽培が容易なので医薬品としての開発がなされ、厚生省から 承認された。
それに対し、メシマコブは野生物が少なく、また栽培が困難なキノコだ。菌糸体(植物の根っこに相当)の培養には成功しているが、子実体(キノコの カサ)までは未だできていない。(現在はメシマコブ子実体の栽培も成功しているとのことである。)従って、当時メシマコブからの抗ガン剤の開発はなされな かった。