フィトンチッド総論

フィトンチッドとその多能な作用について

1.大自然は、野生動物園!

 そんなに深い山に入らなくても、近くの山林を散策するだけでも気分が爽快になって日頃のストレスを和らげてくれる。誰もが一度は経験したことがあるでしょう。

 今から20数年前、当時の林野庁長官の提唱で始まった「森林浴」の活動が、今やわれわれの生活意識に定着した感があります。近年、その「森林浴作用」について、さまざまな角度から検討されその効果性の実態が明らかにされつつあります。まず、森の空気にはフィトンチッド(phytoncide)と呼ばれる微量ガス成分が含まれているということが挙げられます。これは、いろいろな植物がそれぞれの生育過程で発散する揮発性成分で、主にイソプレン骨格を持つテルペン系の有機化合物の集合体であることが知られています。

テキスト ボックス: 図-1 森の空気にはフィトンチッドが漲っているわれわれの共通した知識として、植物の光合成作用を知っています;これは、植物が太陽のエネルギーを得て大気中の二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から、酸素(O2)と炭水化物(植物構成物)を作るというもの。しかし、果たして植物は単純にこの光合成反応の営みだけでしょうか。実は、ちょうどわれわれが呼気(吐く息)、 あるいは生体ガスとして、各部位からさまざまな微量成分を発散しているのと同じように、植物もさまざまな微量成分を葉、枝、幹、根などあらゆる部位から分 泌しているのです。これらの分泌物を総称してフィトンチッドと呼ばれますが、森の空気にはこの揮発性成分がふんだんに含まれており、これが森の空気環境は じめ、森の生態系を整えているということは、あまり知られていませんね。森の空気の清々しさは、いったい何処からくるのでしょうか。森は、「野生動物園」 であるのに、なんらそのような悪臭を発していないのは、一体どう言う意味をもつのでしょうか。

2.森の空気にみなぎるフィトンチッド

 山や森 は、さまざまな植物が生育しているだけでなく、さまざまな動物が棲んでいます。当然ながら、彼らの糞尿、死骸などはあちこちに散在されたままでありましょ う。それなのに山歩きで経験するのは、あの清々しさであり、決して都会の動物園のあの独特の臭気ではありません。この違いは何故なのでしょうか。森にみな ぎるフィトンチッド;その森林浴作用とは具体的にどのようなことを言うのでしょうか、一緒に考えてみたいと思います。

3.フィトンチッドを日常生活に役立てる

 私たちは、この植物抽出物を長年使用してきた経験から、森林浴とは、次のような作用の総称であると、定義しています。

消臭作用(しつこい臭いの消滅作用)
+(有害)化学成分の分解作用
粉塵等の微細粒子の沈降作用
+病原性微生物の活動停止(抑制)作用
+アレルギー症状改善作用
心身のリラクゼーション作用
+活性酸素、フリーラジカル消去(抗酸化)作用
+その他

以下、順次それぞれの作用について説明していきます。

3-1 消臭作用

 図-2は、悪臭公害指定8成分のうちの一つ、微量で臭気強度の強いトリメチルアミンのフィトンチッドとの反応を示しています。

ト リメチルアミンをフィトンチッドの含めた容器に入れ、経時的にその濃度をガス検知管で測定したものである。このトリメチルアミンの分解メカニズムについて は、明らかになっていないが、短時間でトリメチルアミンの濃度が低下している。これは、フィトンチッドのもつ化学物質分解作用と見てよい(トルエン、アン モニアでも同様に消滅した)。このことを踏まえて、実際の下水のトラップ臭(硫化水素)、生ゴミの腐敗臭(揮発性硫黄化合物、有機酸、アルデヒド等の混合 臭)、運動部ロッカー室の臭い(イソ酪酸など)、ペット臭など日常的に出くわすにおいが解消されるし、持続してフィトンチッドを室内に供給していると、果 たしてにおいは終に発生しなくなるのである(たとえ、フィトンチッド供給を中断しても)。


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これは、フィトンチッド成分が、空気中の悪臭成分を分解するだけでなく、室内の装丁素材に吸着されたフィトンチッドが、結果的に室内全体の細菌叢(フローラ)を大自然の状態に整えたためではないかと考えている。

3-2 微細粒子沈降作用
 山に入って感じることの一つに、山の空気は澄んでいることが挙げられる。これは、次のような測定結果からフィトンチッドによる効果と知ることができる。表-1は、患者の歯の切削粉塵や浮遊細菌が多いとされる歯科診療所におけるフィトンチッド含有空気の効果を示したものである。フィトンチッド使用で浮遊細菌(1μm程度の粒子)が減少していることが判る1)

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 実際、室 内に常時フィトンチッドを発散させていると、たとえ喫煙者が居て、その煙が室内に拡散したとしてもしばらくしていると、煙は臭いもろとも消えてしまうこと からも、その作用の実態を知ることができる。特に喫煙者が何人も居たときの、翌朝一番にドアを開けたときに知るタバコ臭のないことで、誰もがフィトンチッ ドの効果のほどを認識できる(はっきりとタバコ臭は、雲散霧消しているのだ!!)。

3-3 有害化学物質分解作用

 われわれ の日常生活は、さまざまな化学物質(合成化合物)で包まれているといっても過言ではない。それが文明の進歩の証しのようにもなっているが、その状態が健康 的かどうかである。答えは否である。事実、化学物質過敏症という症状をもつ人達が増加していることは、現代文明社会の病んだ一面を示していると言える。

 さて、その化学物質は、さまざまな活動の場から発生(排出)される。新築病とも言われるシックハウスシンドロームは、各種建材から出てくるホルムアルデヒドなどの有機化学成分によってもたらされることが知られている。一方、車の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)はじめ色々な公害物質が空気中に共存しているのが、都会の空気である。

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-3は、実際に車によって排出される有機化合物(VOCs)濃度を道路からの距離との関係を示したものである2)。道路からの距離が離れるに従ってVOCs濃度が低下していることがわかる。これは、空気中に含まれるフィトンチッドが人為的発生物であるVOCsを分解しているためである、と考えられる(前述の消臭作用の測定結果と併せて見ると良いでしょう)。

3-4 病原性微生物の殺菌および殺ウイルス作用

 いままで 述べてきたことからも分かるように、森というのは、フィトンチッドがみなぎる空気ドームの中にある生態系であると言える。自由に動けない植物が、危害を加 えられる気配を感じても自力では移動することが出来ないことから、集団で外敵から身を護るという自然の摂理が獲得されているものと考えられる。植物が殺 菌、殺ウイルス作用、一般に病原性微生物に対して、抗菌、抗ウイルス作用を有していることは、昔から経験的にもよく知られているが、森林の空気が、「森の ドーム」を形成していることは、あまり知られていない。むしろ、植物が大気中に出すフィトンチッド成分こそが森の生態系をなしている根幹的な要素ではない かと思われる。

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残念ながら、未だ空気中のフィトンチッドが殺菌、殺ウイルス作用示す直接的な科学データはないが、超希薄フィトンチッド水溶液が、そのような作用を示すことは断片的であるが得られている。表-2は、殺ウイルス作用を示す一例である3)。 単純ヘルペスウイルスとポリオウイルスに対してフィトンチッド水溶液を作用させたときに、単純ヘルペスウイルスに対して、はっきりと効果を示したのであ る。また、さまざまな病原菌に対しては、「フィトンチッド」の語源にもなっているB・P・トーキンの有名な実験が知られている。4)

3-5 抗アレルギー作用

 アレル ギー反応は、外的因子である抗原物質と生体内抗体との異常反応と言えるが、この作用機序についてはよく知られるようになっているが、むかし、生活の場に多 くの自然(植物)が存在したときには見られなかった花粉症とか、アトピー性皮膚炎が近年増加していることの原因はどこにあるのか、についてはあまり解明さ れていない。原因不明のまま対症療法がなされているのが、このアレルギー症状である。

 フィトン チッドが抗アレルギー作用に対して、有効であるという科学的なデータは未だ得られていないが、アレルギー症状をもつ者たちに持続してフィトンチッド希薄水 溶液を噴霧したりして使用すると、その症状が改善する場合が多い。皮膚表面がしっとり湿気を含んだようになるのは、フィトンチッド成分が直接的に保湿効果 を発揮したというよりも、例えば皮膚表面の細菌バランス(フローラ)がフィトンチッド雰囲気により、自然のある状態に変化したためと考えている。このフ ローラの変化により、細菌の種々の代謝生産物などの作用が症状を改善するのでないかと考えている。花粉症性鼻炎などの改善も同様な機序によりもたらされて いるもの、と推測している。

3-6 心身のリラクゼーション作用

 山歩きで 森林浴をしたその夜は、よく眠れたと言われたりする。これが直接的なフィトンチッドの作用に寄るものか、その因果関係を証明するのは困難を伴うが、これを 裏付けるデータが少しずつ増えて来ている。たとえば、ヒノキあるいは、トドマツ葉油の雰囲気でマウスの運動量を調べると、1ppm以下の濃度では、においのないコントロールに比べ運動量が大きくなる。トドマツの場合には0.08ppmで運動量が最大になる。これは、森林大気中のテルペン濃度に近いレベルである。体重が毎日、一定量増加していることや、一定量の摂食量があることから、この運動量の増加は、単なるにおい刺激によるものでなく、快適さのためであることが分かった。1ppm以上になると、マウスの運動量は通常よりも減少してくる。濃いにおいを嗅ぐことにより、逆にストレスが生じるためである。

 人間に対してもその生理作用が確認されている。α-ピネンの1ppm以下の雰囲気で睡眠をとるとコントロールと比して疲労度指数(フリッカー値)が高く疲労の軽減が示されたデータとなっている。

4.植物の存在を見直す

 以上、述 べた森林浴の具体的な作用は、森林という生木の生育している自然環境の場でなくとも、フィトンチッド抽出物という非生命体の場でも同様に、おのおのの作用 がもたらされていることを示した。すなわち、森林浴作用は、必ずしも自然環境に浸たら無くてもある程度達成できるという証左として、紹介した。このこと を、自然環境から掛け離れた都会生活の場で効果的に役立てられるのではないか、と考えられるからである。植物抽出物は生木で無くとも森林浴作用を持ってい るのである。

ま た、フィトンチッドには抗菌作用があることを示したが、これについてはもう少し補足して正しく認識してもらう必要があろう。一つの実験がある。フィトン チッド希薄水溶液を「細菌カウンター」(細菌ATP測定器)で測定したら、その測定器の指示値がプラスの方に大きく振り切れてしまったという、データがあ る。すなわち、このフィトンチッド水溶液には、多くの細菌が棲息しているということである。図-4は、そのことを示す例で、培地にフィトンチッド水溶液を噴霧した後に、室温で数日放置した時の様子である。

-4 フィトンチッド水噴霧後の培養結果(左:1回噴霧、右:2回噴霧):

フィトンチッド水溶液には、ある種のバクテリア(複数種)が生存している?

菌の同定はまだできていないが、はっきりとフィトンチッド噴霧の後にコロニーが発生したことと併せて、このフィトンチッド水溶液には細菌種が生きているのである。


このフィトンチッド液が示すさまざまな森林浴作用は、つぎの二つの原生が直接、間接にもたらした結果であろうと推測できる(図-5)。

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5.大自然の森は、いつも健康である
   −悪臭のない健康な生態系−

わ れわれ人間は、日々さまざまに生活を営んでいる。「健康でこころ豊かに」が幸せというものであろう。しかし、文明が進み物質が豊かになり、利便性が最高に 達したというのに、われわれは本当に幸せ感を持てないでいるのである。というのも、疾病構造が多様化し、いわゆる成人病が若年化している。また、一方、前 例のない人間の行動が社会不安を招いている。現代文明人は「病んでいる」のは、何故であろうか。

 表-3は、 生活環境の違いによる細菌の分布状態を示している。自然環境に近い畑地、水田は、同じような菌種(フローラ)である。データが無いが、「森林」、「都市」 を比較すれば明らかにフローラは異なるはずである。われわれはその相違なるが故に、われわれ現代文明人の寄生菌種(フローラ)も「自然環境人」と相違して いる。そのために、昔、無かったもの、さまざまな新種の病気が発症したりするのではないだろうか。その例が花粉症である。

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この環境差を無くす術(すべ)が、 植物(群)であり、それらが発散するフィトンチッド群である。非自然環境である都会でわれわれが安心して棲める環境作りは植物群との共生である。すなわ ち、都会における森づくりである。そこには、正常なるフローラが得られ、自ずとわれわれの寄生フローラが改善されることになる。その結果として、腸内ガス (放屁)臭、便臭、口臭、体臭など臭いものに対する対策が根本的に改善されることになるだけでなく、その行き着くところは、われわれの健康体が守られると いうことにある。

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 その証しの一つとして、フィトンチッドによる口腔内細菌群中 のウレアーゼ活性(多くの嫌気性菌が産生する)の抑制作用である。フィトンチッドを含むキャンディを口腔内溶解した後のウレアーゼ産生細菌量の変化であ る。口腔内(歯科)症状のある人達がキャンディ摂取で正常レベルに達し、それが6時間以上も持続したというのである。(図-6 

6.補足:自然現象で、フィトンチッドの存在よると考えられるもの
(これらの現象に対しては、いずれも科学的な視点がなくまだ解明されていません。)

1.山奥の谷川で、死んでいる魚が腐敗していない。(抗菌作用)

2.天然温泉には、古来その温泉の効用が知られている。(生体への総合作用)

3. 天然のミネラルウオータにはフィトンチッドが含まれる。
  (但し、日本では食品衛生法の関係で前処理がなされているので、当てはまらない。)


4. サケの朔行にフィトンチッドの存在が深く絡んでいる。

      (原出典:植田秀雄、見えないものを視るサイエンス-生体ガス試論-2003から抜粋、一部改変)

参考資料
     
1) 駒井正:歯科救急医療、18,16(1997)
  2) 谷田貝光克:木材学会誌、37,583(1991)
  3) 白木公康:未発表(私信による)
  4) トーキン BP、神山恵三:植物の不思議な力=フィトンチッド微生物を殺す
  5) 樹木の謎、講談社、東京(1980)

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